イカ

 僕は営業なので毎日のようにお客さんのところに行くわけですが、その途中の移動時間っていうのはけっこう貴重な時間なんですね。基本は立ってるのでその間は次の仕事のことを考えるし、座れたときはほぼ100%寝てるんだけど、今日読んだ本はその貴重な移動時間を削ってついつい読んでしまったのでした。

イカの哲学 (集英社新書 0430)

イカの哲学 (集英社新書 0430)

 この本の著者は、特攻隊で出撃が決まっていたのだけど、出撃前夜のソビエト侵攻でシベリアに抑留され、帰国後にスタンフォード大学の哲学科に留学して、で、その間の夏休みでモントレーイカ加工工場でバイトしてたそうな。で、その作業中に思いついたことがこの本になっているのだけど、本当に短い文なのだけど、ものすごくいろんな情景が目に浮かぶように書いてあって、例えばシベリアの炭坑とカリフォルニアの太陽との対比とか、原子爆弾イカ漁のイメージとか、そういうのがすごく印象的だった。解説の中沢新一はこの文を現代の神話として、ヒューマニズム批判や平和学、エコロジーを読み解くのだけれども、それはそれとして、僕にとっては著者自身の、一人の人間としての強さが強烈に印象に残った。

もし神様、もしくは創造主と言われるごとき何ものかが、実際に存在するとすればきっと、本能の傾く方向の延長線上の”何処かに”実在するに違いないのだ。

てなことを特攻の前日にトイレで思いついたり、数万匹のイカを処理しながら、

イカ達の親類縁者のような感じになった大介君は今や、人間世界の戦争をいかにして防止するか、と言う大問題に対する回答を殆ど見いだしかけ

るような精神の持ち主でいたいのだな、僕も。